東京高等裁判所 昭和50年(ネ)1790号 判決
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 被控訴人ら(被控訴人芳野友一を除く。)が更生会社天野興業株式会社に対し、それぞれ別表甲記載の各金額の更生債権を有することを確定する。
2 被控訴人芳野友一の請求及び同被控訴人を除く被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人と被控訴人芳野友一との間においては同被控訴人の負担とし、控訴人とその余の被控訴人らとの間においては、これを三分し、その一を右被控訴人らの負担とし、その余を控訴人の負担とする。
事実
控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら(被控訴人上澤康雄を除く。)は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張は、以下に訂正・付加するほか、原判決事実摘示のとおりである。
(控訴人の主張)
一 被控訴人目黒光夫は、昭和四二年六月から訴外立川レミコン株式会社(以下、「立川レミコン」という。)の従業員となり、本件退職当時は天野興業の従業員ではなかった(同被控訴人が当時天野興業の従業員であったこと及び前記解雇予告手当と金一万円が天野興業から同被控訴人に支払われたことを控訴人が自白したのは、錯誤によるものであるから、これを撤回する。)。したがって天野興業は同被控訴人に対し退職金支払の義務はない。
二 勤続三年未満の者に対する退職金支給率については、天野興業の退職金規定のA表支給率において、その支給係数が〇となっており、これは規定の不備であるが、このような場合には規定の趣旨を合理的に解釈して適用すべきところ、A表支給率の趣旨は勤続年数に応じて支給額を累進させようとするにあるから、勤続三年未満の場合は、三年在職者の支給係数一・〇に在職月数に応じた比率を乗じ、これにより退職金の額を算定するのが相当である。
(被控訴人目黒光夫の主張)
控訴人の右主張一につき、その自白の撤回に異議がある。
天野興業と立川レミコンとは、社屋も同一設備を利用し、社長以下役員のほとんどが同一で、登記上のみ別会社になっていたにすぎない。
(被控訴人志岐一郎、同山本闡、同高橋秀雄の主張)
勤続三年未満の者については、A表支給率に規定がないが、退職金規定を退職者に不利益に適用することはできないから、控訴人のこの点に関する主張は失当である。
理由
当裁判所の本件に対する認定判断は、以下に訂正・付加するほか、原判決理由の説示するところと同一である。
(一) 被控訴人目黒の従業員たる地位について。
控訴人は従前、被控訴人目黒が本件退職時に天野興業の従業員であったことを認めていたのであって、その自白が真実に反しかつ控訴人の錯誤に出たものであることは、これを認めるに足りない。もっともこれに沿うかのような≪証拠省略≫があるけれども、≪証拠省略≫と対比すると、被控訴人目黒が立川レミコンへの出向により天野興業の従業員としての地位から全く離れたことについてはなお立証は不十分といわざるをえず、結局控訴人の右自白は依然有効である。
(二) 勤続三年未満の者に対する退職金について。
天野興業の退職金規定において、勤続三年未満であっても会社の都合による退職の場合には退職金が支給される旨定められながら、そのA表支給率にはこの場合の支給係数は〇とあって、これが規定上の不備であること(すなわちA表支給率による支給をしないという積極的な趣旨ではないこと)については、当事者間に争いがない。そこで、この場合の合理的な退職金支給率を考えてみると、一般に退職金は必ずしも厳密に勤続年数に対応するわけのものではなく(≪証拠省略≫中のA表支給率を見ても、勤続期間に対応して累進的になっているが、その上昇率は一定でなく独自の定めがなされている。)、また退職金の性質からみても、支給係数一・〇(基本給の一か月分)を下廻るのは適当とは思われないので、この場合、所定の最低支給係数一・〇を適用するのを相当と認める。
(三) 被控訴人小林弘に対する退職金規定B表支給率の適用について。
≪証拠省略≫によると、天野興業の退職金規定において、役職者の場合、B表支給率適用の基礎となる点数(勤務評定)の最高は三〇点であり、点数の評定は一定の手続を経て役員会で決定することに定められていることが認められる。本件の場合、控訴人及び天野興業は退職金支払義務を否定しているから、もとより右評定は行われていないので、裁判所が相当と認めるところによるほかはないところ、被控訴人小林弘は、天野興業において出色の勤務成績であったことは本件証拠を通じてうかがうことができるけれども、≪証拠省略≫によれば、天野(総務部長。なお総務部は人事をも担当する。)としては、被控訴人小林弘は天野興業の管理部長として同社倒産の責任の一半を負うべきであるとの見地から、評定のうちCの「役職評価」を一〇点中四点と見ていることが認められること、同被控訴人主張の三〇点は昭和五〇年六月二日付被控訴人らの準備書面添付一覧表によるものであるが、この採点は同被控訴人がみずからしたものであることが同被控訴人の供述により認められること(したがって、いわゆるお手盛りの感を免れず、他の被控訴人らの点数との均衡をも考慮しなければならない。)からみて、満点の評価はやや行き過ぎと思われるので、「役職評価」から二点を減じ、合計二八点をもって相当と認める。
右認定によれば、B表支給率による同被控訴人に対する支給係数は八・〇〇となるから、その基本給八万円に対する金額は六四万円となる。したがって、A表支給率による支給額とあわせて、同被控訴人に対する退職金の合計額は七六万円と認めるのが相当である。
右の趣旨に従い、原判決添付別表第二のうち「小林弘」の欄を本判決添付別表乙のとおり改める。
(四) 被控訴人らに支給された各一万円の金員について。
原判決一〇丁裏九行目から一一丁表九行目までを削り、そのあとに次のとおり挿入する。
「≪証拠省略≫を総合すれば、天野興業は、その倒産により従業員全員を解雇するにあたり、正規の退職金支給の資力がなかったため、解雇予告手当と、一律一万円を慰労金名義で支払うことにより、それ以上は何らの金員を支給しない(特別の契約により雇傭された者を除く。)との方針を採り、昭和四六年八月三一日従業員らに右金員を支払う旨説明し、九月七日被控訴人らは右各金員を受領したことが認められる(もっとも、これによって被控訴人らが退職金を免除したものとは認められないことは前記認定のとおり)。そこで右一万円支給の趣旨についてみると、それが退職に際し支給されたものであること、天野興業としては、正規の退職金支給の意思がないほどであるから、その支給義務があるとするならば、いわんやそれ以上に特別の金員を支払う意思があったとは考えられないことからみて、右一万円は退職金に代わる支給金と認めるのが相当であり、したがって本件で退職金支払義務があると認められる以上、これを退職金の一部弁済と認めざるをえない。≪証拠判断省略≫
そして被控訴人小林弘、同増田正年、同小林妙子、同目黒光夫を除く被控訴人らに対し原判決添付別表第二「既払保険金」欄のの各保険金が支払われたことは右被控訴人らと控訴人との間に争いがなく、それが退職金の弁済の一部であることについては、右被控訴人らの明らかに争わないところである。
3 よって、≪証拠省略≫及び前記認定事実に基づき算定した被控訴人らの退職金の額及びその内訳は原判決添付別表第二(被控訴人小林弘については本判決添付別表乙)のとおりで、右金額から各被控訴人につき弁済ずみの一万円ずつを控除した額(したがって被控訴人芳野友一については○)が、天野興業が支払義務を負う退職金額であると認められる。」
以上のとおりであって、被控訴人芳野友一の請求は失当であり、その余の被控訴人らの請求は、本判決添付別表甲記載の金額の限度において正当であるがその余は失当であるから、原判決を変更して、右の限度で本訴請求を認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用につき民訴法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 瀬戸正二 裁判官 小堀勇 青山達)
<以下省略>